1.雨の中の子猫

25/27
前へ
/201ページ
次へ
「もう、次からは入れないから」 「わかってる、わかってる」 私の話を聞き流して軽く受け答えする佐尾くんが、本当にわかってくれているのかはかなり怪しい。 「じゃぁ……」 佐尾くんの身長に合わせて高い位置で持っていた傘を、私の身長に合う自然な位置まで戻す。傘に遮られて佐尾くんの顔が見えなくなると、緊張が解れたのか妙にほっとした。 しとしとと降る雨の中を、自宅に向かって歩き出そうとしたとき。 「西條さん。あいつ、元気?」 佐尾くんが唐突に尋ねてきた。 私との会話の中で彼が指す「あいつ」は、のことしかあり得ない。 あの雨の日。私と佐尾くんが初めて言葉を交わすきっかけを作った、あの子猫のことだ。 「元気だよ。この前会ってきた」 「へぇ、いいな」
/201ページ

最初のコメントを投稿しよう!

191人が本棚に入れています
本棚に追加