1.雨の中の子猫

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ひとりで入る傘はゆったりとしていて、佐尾くんとふたりのときよりずっと落ち着く。 同じ中学出身とはいえ、教室の端で一人きりで時間をやり過ごしていることの多い私と、教室の中心で常にクラスメートに取り囲まれている佐尾くんが学校で関わりあうことなんて、これまでほとんどなかった。 それなのに……。子猫を拾って以降、佐尾くんは雨の日の放課後に私に話しかけてきて、私の傘に入って帰りたがる。 華やかでキラキラした印象の佐尾くんが私と相合い傘したって、ちっともつりあわない。誰もがきっとそう思っているはずなのに。 わざわざ私なんかに声をかけてくる佐尾くんは、理解不能だ。 湿気を孕んだ空気が、素肌に纏わりついてくる。小さく身震いすると、私は自宅に向かって歩を速めた。 佐尾くんのことは無事に送り届けたし、あとはもう、1秒でも早く家に帰りたい。 雨の日なんて、大嫌いだ。
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