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今朝教室で佐尾くんを見たとき、彼が雨に濡れている様子はなかった。傘を持っていない人が、雨の中濡れずに登校してこられるわけがない。
疑いのまなざしを向けると、佐尾くんが小さく苦笑いした。
「西條さん、俺のこと疑ってる?」
「だって、今日は朝から雨だったでしょう。それなのに傘を持ってないなんて、どう考えてもおかしいじゃない」
「今朝は兄貴が大学に行くついでに車で送ってもらったんだよ。うちのマンションの駐車場、屋内で繋がってるから、車のときはうっかり傘を忘れちゃうんだよね。降りるときに傘がないことに気付いて困ってたら、偶然通りかかった友達が傘にいれてくれた。『バカだ』ってすげー笑われたけど」
「そう」
「あ。ちなみにそれ、男友達だから安心してね」
佐尾くんが首を横に傾けながら、にこっと笑いかけてくる。
佐尾くんが雨に濡れていなかった理由は一応わかったけど……。「安心して」の意味がわからない。
佐尾くんが誰の傘に入れてもらおうが、私には全く関係ない。そのはずなのに、彼の言葉を聞いて妙に安堵してしまっている自分がいた。
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