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もし佐尾くんが私の傘を気に入っているのだとしたら……。このまま傘だけ攫われていってしまうかもしれない。
それは、困る。
「待って……」
走って追いかけようとした私は、昇降口を出てすぐのところで待ってくれていた佐尾くんに気付かず、彼の背中におでこから勢いよくぶつかった。
「いたっ……」
思わず悲鳴をあげると、佐尾くんが驚いた顔で振り返る。
「え、西條さん。大丈夫?」
私の激突は佐尾くんにとっても想定外のことだったらしい。ひどく慌てた様子で背を丸めた佐尾くんが、私と視線が合うくらいに姿勢を低くした。
「ごめんね」
心配そうに眉を寄せた佐尾くんが、私の額に手を伸ばす。その手が前髪を掻き上げるように触れそうになって、私は咄嗟に彼の手を叩き落とした。
「やめて!」
思っていた以上に大きな声が出てしまい、慌てて手のひらで口を塞ぐ。
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