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「帰ろっか」
佐尾くんが、私の傘をまるで自分のもののように開いて、雨空に向かって高く掲げる。
花柄模様の傘は、佐尾くんには全く似合っていなかった。似合わな過ぎて、なんだかおかしい。
似合わない傘をくるりくるりと回しながら私のことを待つ佐尾くんを見ていたら、前髪をきつく押さえつけていた手のひらの力が自然と緩んだ。
「西條さん、帰らないの?」
「帰る」
ゆっくりと歩み寄って、佐尾くんがさしてくれている傘の下に入る。
そういえば、今まで何度も一緒に帰っているのに、佐尾くんに傘をさしてもらうのは初めてだ。
自分がさすときは、佐尾くんが濡れないように気をつけながらも適度な距離を保って歩くことができるけど。逆の場合、どの程度の距離を保って歩けばいいんだろう。
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