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5時間目の初めから降り出した雨は、午後の授業が終わる前には止み、どんよりと曇っていた空は、放課後には嘘みたいにすっきりと晴れていた。
HRが終わったあとも、佐尾くんはクラスメートの男子たちや清水さんたちの女子グループと楽しそうに話している。
今日こそはと思っていたけれど、今日もダメだ……。
笑顔の佐尾くんを横目に、とぼとぼと教室を出る。
昇降口を出ると、雨上がりの太陽の光がぱっと顔に射してきた。
眩しさに目を細めながら、スクールバッグの中のタオルを思ってため息を吐く。
この調子だと、佐尾くんに借りたタオルは永遠に返せないかもしれない。
どうしようか、と思い悩みながらスクールバッグの口を少し開いたとき、ふと、いい考えを思い浮かんだ。
そうだ。別に、直接佐尾くんの顔を見て返す必要もないじゃないか。
話す機会がないのなら、一筆添えて佐尾くんの靴箱にタオルを入れておけばいい。
どうしてもっと早く思い付かなかったんだろう。
そのことに気がついたら、一刻も早く重荷を下ろしてしまいたくなった。
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