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まだ何か?
立ち止まって振り向くと、佐尾くんが私から視線をずらして、話すのを躊躇するように唇を震わせる。
どうしたんだろう。
呼び止められた理由がわからず、首を傾げていると、佐尾くんが遠慮がちに口を開いた。
「あの、さ、西條さん。よかったら、一緒に帰らない?」
「え?」
びっくりして、思わず間の抜けた声が出る。
「あ、 他の人と約束ある? だったら無理にとは言わないんだけど」
バカみたいに口を開いてぽかんとしていると、佐尾くんが顔の前で取り繕うように早口で付け加えた。
「約束、とかは特に……」
高校生になってから、誰かと一緒に帰宅したことなんてない。学校の登下校は、基本的にひとりだ。雨の日に、佐尾くんに半ば強制的に一緒に帰らされる以外には。
だけど今日は……。
雨がやんで清々しいくらいに晴れた空を見遣る。
「今日、雨降ってないよ?」
佐尾くんに私の傘は不要なはずだ。
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