3.雨上がりの放課後

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小さく首を捻っていると、佐尾くんが僅かに眉間を寄せて、難しそうな表情を浮かべた。 「タイミングよく下駄箱の前で出会ったから声かけてみたんだけど。雨が降ってない日は誘ったらダメだった?」 問い返されて、答えに困った。 雨の日以外に佐尾くんに声をかけられるなんて。こんなシチュエーションは初めてで、どうするのが正解なのかわからない。 というより、佐尾くんのほうこそ、私以外に一緒に帰る相手がいるんじゃないかな。 「佐尾くんは、他の誰かと約束してないの?」 反応を窺うように尋ね返すと、佐尾くんが歯を覗かせながら嬉しそうに笑った。 「してないから、西條さんに声かけたんだけど。一緒に帰ろうよ」 「う、ん?」 語尾上がりにそう言って首を傾げたのが、どうやら了解のサインだと思われたらしい。 「行こ」 佐尾くんが元気にそう言って、にこっと笑いかけてくる。 本当にいいのかな。 佐尾くんの笑顔に戸惑いながら、少し遅れて彼の背中を追いかける。数歩後ろを歩きながら、私は「一緒に帰ろう」と彼に誘われたことが不思議で仕方なかった。 雨の日ならともかく、晴れた日に私と一緒に帰ったって、彼には何のメリットもないはずなのに。
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