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佐尾くんの話を聞いているうちに、私たちはいつの間にか家の近くまで帰ってきていた。
このまま真っ直ぐ進めば佐尾くんの住むマンションが見えてくるけれど、私の家は、目前に見えてきた別れ道を左に曲がってしばらく歩いた場所にある。
雨の日は傘をさして佐尾くんの家まで一緒行くけれど、今日は晴れているから、わざわざ彼のことを家まで送る必要もない。
別れ道の手前で足を止めると、少し遅れて立ち止まった佐尾くんが、同時に話すのもやめた。
佐尾くんの話はとても楽しかったから、もっと聞いていたいような気もするけれど……。ここでさよなら、かな。
「じゃぁ、また」
手を振って別れようとしたら、佐尾くんが小さく首を横に振った。
「西條さんち、向こうだよね? 送ってく」
「え、でも……」
そんなことをしたら、佐尾くんが遠回りになってしまう。
断ろうと口を開きかけたら、それに気付いた佐尾くんが私を制止した。
「ちょっと待って。今断ろうとしてるでしょ?」
「だって、佐尾くんが遠回りになるし」
「大丈夫だよ」
「でも……」
反論の言葉を続けようとしたら、佐尾くんが私の唇にすっと人差し指を押しあててきた。
少し熱い、彼の指先の温度にドキリとする。
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