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◇
別れ道をふたりで一緒に左に曲がったあと、私と佐尾くんはなんとなくお互いに無言になった。
さっきまで中学時代のバスケ部の仲間のことを饒舌に話していた佐尾くんが急に何も話さなくなったせいで、隣を歩く私の緊張感が増す。
佐尾くんはもうちょっと一緒に歩きたいと言ってくれたけど……。こんなに沈黙でいいのだろうか。
気になるけど、私から佐尾くんに振れるような話題もない。
遠回りをしたことを後悔してたら、どうしよう。
気になって、佐尾くんのことを横目で盗み見たら、彼は前を向いて涼しい顔で歩いていた。
そのまま見ていると、私の視線に気付いた佐尾くんが、唇の端をきゅっと引き上げて笑いかけてくる。
盗み見していたことがバレて、かなり恥ずかしい。
だけど、ちょうど自宅が見えてきたおかげで、なんとか気まずさは誤魔化せそうだった。
「うち、もうそこ……」
数メートル先に見えてきた、3階建ての白壁のアパートを指差して、足を止める。
そのとき、私たちが立ち止まったすぐそばの家から、威嚇するような犬の唸り声が聞こえてきた。
見ると、その家で飼われている柴犬が、庭の柵の隙間から鼻先を突き出して唸りながら、私たちのことを警戒している。
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