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「辛い思いしたときの記憶が残ってるんだよな。でも、俺も西條さんもお前に危害を加えたりはしないよ」
優しい声で話しかけながら、佐尾くんが庭の柵を慎重にそっとつかむ。
そのまま辛抱強く話しかけていたら、茶太郎も佐尾くんへの警戒心を少し解いたのか、それともしつこい彼の態度に諦めたのか。低く唸るのをやめて、佐尾くんと柵越しに向かい合った状態で、すとんと地面に腰を落とした。
目をつりあげて唸っている姿しか見たことのない茶太郎が、困ったような目をして佐尾くんを見つめている。その事実に、驚きを隠せない。
「少し撫でていい? お前、ふわふわで綺麗だなー」
そう言いながら、佐尾くんがついに柵の隙間から手を入れる。
それはさすがに……と思って止めようとしたら、茶太郎が背中に伸ばされた佐尾くんの手を無言で受け入れたから、さらに驚いた。
茶太郎が家の人たち以外に体を触らせているところを見るのは初めてだ。
まさか、茶太郎が家の人以外に警戒心を解くなんて……。
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