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自宅を出てふらふらと歩いていると、柵のある庭の前で茶太郎に威嚇するように吠えられた。
佐尾くんにはあんなにおとなしく撫でられていたくせに。まるで別人みたいだ。犬だけど。
そんなことを思いながら茶太郎の家の前を足早に通り過ぎて、曲がり角を左側に折れる。
しばらく歩くと、佐尾くんの住むマンションが見えてきた。目的のコンビニは、それよりももう少し先にある。
それなのに私は、佐尾くんの住むマンションの前で立ち止まって、無意識に上を振り仰いでいた。
マンションの薄い灰色の壁を見上げながら、自分の無意識の行動に気付いてハッとする。
私はいったい何をしてるんだろう。
こんなところで立ち止まったって、佐尾くんが出てくるわけもないのに。
マンションの壁を見上げながら無意識に思い浮かべていたのは佐尾くんの顔で……。そんな自分に、戸惑った。
胸に湧き上がってくる妙な感情を掻き消すために、コンビニまでの残りの道のりを走る。
コンビニに駆け込むと、パンコーナーの食パンを銘柄もろくに確認しないままに購入し、速足で店を出た。
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