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「もしまたどこかで佐尾くんのこと見かけたら、今度は声かけてみようかな」
笑いながらそんな発言をする瑞穂ちゃんは、中学時代よりも明るくて積極的だ。
中学のときは、「遠くから見てるだけで充分」と、佐尾くんのことを視線で追いかけるばかりだったのに。
垢抜けて綺麗になった瑞穂ちゃんは、高校生になって自分に自信がついたのかもしれない。
今の瑞穂ちゃんなら、次に佐尾くんに会ったときに本当に声をかけてしまうかもしれない。
「瑞穂ちゃん、今でも佐尾くんのこと……」
つい気になって訊いてみると、瑞穂ちゃんが顔の前で手を振りながらクスクスと笑った。
「えー? 違う、違う」
きっぱりとした声でそう否定すると、瑞穂ちゃんが右手の甲を私に向かって見せつけてきた。
「高校に入って彼氏できたの。半年くらい付き合ってて、もう彼氏一筋だよ」
揃えて伸ばされた瑞穂ちゃんの右手の薬指には、彼女の華奢な指には若干ゴツすぎるように思えるシルバーの指輪が嵌っていた。
垢抜けて綺麗になったのは、彼氏ができたからなんだ。
「そうなんだ。おめでとう」
おそらくペアだと思われる指輪を見せながら幸せそうに笑う瑞穂ちゃんを見ていると、自然と私の頬も緩む。
「じゃぁ、またね。今度遊ぼう」
しばらく世間話をしてから、私たちは社交辞令みたいな口約束をして、コンビニの前で別れた。
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