第1章

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「今日はゆっくりお休みください」 「うん! あ、そうだ。クーラー壊れてるんだった……」 「帰ったら直せないか見てみましょうか」 「ありがと~」 町より随分と涼しい道路を歩いていると、やっと石の階段が見えてきた。 長かった~。もうちょっと近くにバス停が欲しいよ。 「神楽、階段気をつけてね」 「はい」 私の後から階段を上る神楽を、少し気にしつつ進んで行く。 「ただいま~」 「ただいま戻りました」 玄関の引き戸を開けて、家に入る。 廊下を歩いて、時雨がいるであろう部屋まで行く。 「ただいま! シグ~! おやつ買ってきたよ!」 「お帰り。おやつ?」 「うん! 3年前に時雨が気に入ってたグミ! 見つかったんだ~」 私は神楽から袋を受け取って、おやつを出して時雨に見せる。 時雨は目を輝かせ、今にも千切れそうなぐらに尻尾を振っている。どうやらお気に召してくれたらしい。 「お帰りなさい、灯代さま、カグさま! シグさま、おやつは晩御飯の後!」 そう言って私の手にあるグミの袋を、時雨から見えないように両手を横に延ばして立ち塞がったのは、頭の上に狸の耳を残して尻尾も隠せていない小さな女の子だった。 えんじ色の着物を着ているこの子は、巴。背丈は私の腰あたりで、まだ変化の術が時々失敗する可愛い子なのだ。
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