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「今日はゆっくりお休みください」
「うん! あ、そうだ。クーラー壊れてるんだった……」
「帰ったら直せないか見てみましょうか」
「ありがと~」
町より随分と涼しい道路を歩いていると、やっと石の階段が見えてきた。
長かった~。もうちょっと近くにバス停が欲しいよ。
「神楽、階段気をつけてね」
「はい」
私の後から階段を上る神楽を、少し気にしつつ進んで行く。
「ただいま~」
「ただいま戻りました」
玄関の引き戸を開けて、家に入る。
廊下を歩いて、時雨がいるであろう部屋まで行く。
「ただいま! シグ~! おやつ買ってきたよ!」
「お帰り。おやつ?」
「うん! 3年前に時雨が気に入ってたグミ! 見つかったんだ~」
私は神楽から袋を受け取って、おやつを出して時雨に見せる。
時雨は目を輝かせ、今にも千切れそうなぐらに尻尾を振っている。どうやらお気に召してくれたらしい。
「お帰りなさい、灯代さま、カグさま! シグさま、おやつは晩御飯の後!」
そう言って私の手にあるグミの袋を、時雨から見えないように両手を横に延ばして立ち塞がったのは、頭の上に狸の耳を残して尻尾も隠せていない小さな女の子だった。
えんじ色の着物を着ているこの子は、巴。背丈は私の腰あたりで、まだ変化の術が時々失敗する可愛い子なのだ。
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