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――からんからん。  来客を告げるドアベルが鳴り少しびくっとする。 「いらっしゃい……おや。萌ちゃん。いらっしゃい」  鏑木さんが、カウンターの向こうから顔を出した。  学校の帰り、姉の恋人の店を訪れていた。喫茶店「goro」。店主である鏑木さんの下の名前、吾朗から取ったと話していた。コーヒーの匂いが立ち込めているが、私はコーヒーは飲まない。 「鏑木さん。こんにちは、今、暇?」 「残念ながら見ての通り」  がらんとした店内を改めて見直す。こぽこぽとコーヒーを作る音がしているが、どうやら鏑木さん用の物らしい。鏑木さんが普段使っている白い大きめのカップに出来上がったコーヒーを注いでいた。 「こんな感じで生活できるの?」 「他で生計立ててるから」 「ブログってそんなにもうかるの? ていうか、喫茶店は儲かってないんだ」  鏑木さんははは、と笑い、コーヒーを啜った。  鏑木さんはコーヒーや喫茶店とは全く関係のない、飼っている猫のブログを書いている。そこでの広告収入が結構な金額になるらしい。しかし、それは鏑木さんの力ではなく猫の力である。
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