夢のはじまり

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『さあ、ついに始まりました催眠道選手権世界大会! ここ、ドリームスタジアムには各予選を勝ち進んだ催眠ファイターが続々と集結しております!』  司会のアナウンスに観客達のボルテージも最高潮に盛り上がる。 「あいつは五円玉の魔術師、振子振夫(ふりこふりお)! 今年もピカピカに磨かれて気合い入ってるな!」 「見ろ、あの女は六月の子守唄、亜眠(あみん)! すでに赤ん坊を10人も寝かしつけてやがる!」 「あそこにいるのは佰疋冥(ひゃくひきめい)! 今年も羊のコスプレで柵を飛び越える気満々だ!」  催眠道界でも有名な選手が続々とスタジアムに入場してくる。しかし享志郎の目に映るのは、壁を背に佇む寝癖頭の青年のみ。彼をこの世界に引き込んだとも言える永眠のライバル、寛義靖美(くつろぎやすみ)である。  その昔、喧嘩に明け暮れていた自身を瞬く間に眠りに落とした靖美に、享四郎は教えられた。  暴力以外でも、人を支配することができるのだと。  涼しげな顔で佇む靖美と目が合うと、享四郎は合掌した手を自身の頬にあてがい首を傾けた。 (久し振りじゃのう寛義靖美。ワシの編み出した必睡技で、おのれをぐっすりおねんねさせてやるわい……!)  靖美も心の中で応えた。 (うわ、あの学ランの人すごい目の下に隈ができてる。緊張して眠れなかったのかな?)  100名は超える選手が出揃い、開会式が始まった。  『まず初めにこの大会の主催者であり、催眠道協会理事長、ラリホー田中の挨拶です』  壇上に寝間着姿のオヤジが立ち、ひとあくびした後挨拶を始めた。 『えー、本日は大変お日柄もよく絶好のお昼寝日和になったことを嬉しく思います。諸君はこれまでこの大会のため寝る間も惜しみ、あくびをこらえ目の下に隈も滲むような努力を積み重ねてきたことと思いますがー』  理事長の挨拶は享四郎の耳には届いていない。それだけ彼の精神は試合に向けて集中していた。
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