2. ぼくの世界に住み着かれて

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木漏れ日が差す歩道を、ぼくはぼくのペース配分で歩き続けていた。 手には書いたばかりの手紙を持って、 最も近い場所に設置されている郵便ポストを目指す。 彼女の住む町の名前は初めて見る地名だった。 まさか県外に向けて手紙を書く日が来ようとは、思ってもないことで。 人気者の彼女は、夏休み明けになってもまだ教室に存在感を残していた。 綺麗でまっすぐな文字を眺めると、体の奥にツーンという言い様のない痛みが走る。 彼女は小さなメッセージカードとそれが入る小さな封筒に、クラス全員分にありがとうという短いけれど決して忘れられない言葉を配って行った。 だから、当然。 居なくなった彼女のことを名残惜しむ声が毎日聞かれた。 そんな中で、ぼくはまたひとりぼっちの心地よさの中にいて、 自分だけの胸に仕舞ってある彼女とのやりとりを 何食わぬ顔をしながらこっそりと楽しんでいる。 一週間に一度のペースで、手紙は往復していた。 *** 元気ですか? 私は元気です。 でも、慣れない場所で一から始まる生活は思った以上に疲れます。 離れてみて、私はとても素敵なところにいたんだなっていうことに気付きました。 こちらは夏がとても足早にやってきて、今月いっぱいはまだ夏休み。学校が始まる前に図書館に通いがてら、周辺を散歩しながら色んな発見をしています。 夜眠る前は、どうして自分はここにいるんだろう?って考えて、眠れなくなりました。 新しい職場で働いて、仕事から帰ってくるお母さんと顔を合わせる時間があまりありません。 こんな時、一人っ子って寂しいなって思います。 市営住宅の五階に住んでいるんだけど、 階段がとっても狭くて人とすれ違う時とても怖いです。 目の前に公園があって、沢山の子供たちが遊んでいる声が聞こえて来るけれど、こんなに人がいるのに、私を知る人はまだ一人もいないのだと思うと、とても心細い気持ちになります。 *** 彼女は、畑野という苗字になったばかりの巴は、 手紙の中では想像以上にか弱い女の子だった。 はつらつとして明るいイメージとは程遠い、 内気な面を知るたびに ぼくの中の巴は自分に似ているのだと思うようになっていった。
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