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ポストの前に来ると、ぼくは周囲をキョロキョロと見渡してから、封筒に口付けして、そっと投函する。無事に届きますようにという祈りと、慣れない土地で心細い想いをしている彼女を励ましたい気持ちを込めて。
それから三日後には、巴から返事が届いた。
北海道から千葉まで郵便物が届く時間は、切手を買った際に郵便局員から聞く限りでは早くて二日かかる。その情報が確かなら、巴はぼくの手紙を読んですぐに返信を書き、ポストに急いだことになるんじゃないだろうか?
そんな必死な彼女を想像すると、どうしようもない程嬉しくて。
手紙の封を切ると、とても良い香がする。
あの時、巴が去るときに残した香と同じ、華やかでやさしい女の子らしい香。
忘れられない鮮明が笑顔を思い浮かべながら、ぼくは彼女の心に寄り添いたい一心ですぐに返事を書いた。
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ぼくらの話題は図書館で借りた本の紹介から、最近インパクトがあった出来事とその感想や、普段は他人には打ち明けることのない家庭内の事情に至るまで、少しずつ、でも確実に距離を詰めていたと思う。
もう、ぼくはひとりではなくなっている。
いつ、どんなときも、なにをしていても、彼女が心の中にいる。
新しい学校が始まったばかりの頃、彼女の手紙の内容は不安を吐露してばかりいた。話す速度も、会話のテンポも、話題にも馴染むのが難しそうだと巴は書いていた。
家に帰っても話す相手がいないから、どうしてもぼく宛の手紙に今日感じたことを書いてしまうのだ、という。それはつまりぼくを頼ってくれているのだと思うとすごく嬉しくて、ただひたすらに嬉しくて、巴を励ます言葉だけじゃなく、彼女のさびしさが少しでも紛れるための話題をつづった。
手元にある小説や詩集で気に入った言葉をそのまま書くと、それを読んだ彼女から感想の言葉と、それからオリジナルの詩が入ってくるようになった。
ぼくたちはやはり似ているのだと思った。
巴が集団の中で感じる孤独について書いた詩を読み返せば返すほど、その一言一句を噛み締めるように見つめれば見つめる程、ぼくがずっと抱えてきた誰とも分かち合えないさびしさやもどかしさを彼女は自分らしい言葉で表現していたから。
感じ方が似ている。
それだけでぼくらはまるで生まれる前からの親友のような気持になれたと思う。
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