2. ぼくの世界に住み着かれて

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 巴の手紙はいつの間にか仔猫や仔犬の絵ハガキになり、長々と書き綴られていた文字数がガクンと減って、書いてある言葉からも心を感じ取ることができなくなったのは、ぼくが高校に上がって夏休み前の定期テストを終えた頃だ。  何てことのないあいさつ程度の言葉になっていた短い文面を何度眺めても、彼女の気持ちが感じられなくて、ぼくは思い切って電話をかけてみることにした。  夜七時ぐらいなら家にいるはず。  巴はかなり真面目な女の子で、実生活の中では寂しさや気だるさを表に出さずに、小学生の頃のような優等生を演じているのだと、そう思い込んでいた。その事に気付くきっかけになったのは―――。  コールが鳴ってすぐに応答したのは、巴のお母さんだった。 「もしもし、ともちゃん?」  飛びつくように、悲壮な声色は震え、かなり気持ちが高ぶった様子が、受話器の穴の奥から僕の脳裏に流れ込んできた。 「あ、あの! ぼ、ぼ、ぼ………ぼくは………」  吃音持ちのぼくはすぐに言葉が出て行かない。  焦るときほどその悪い癖が、ぼくの初動を邪魔する。  でも、この特徴のおかげで相手はすぐにぼくのことを思い出すこともある。  巴のお母さんも、ぼくのことは知っている。  それはすでに何度か電話で話したことがあるせいで、いつもは巴からかけてくる電話が多かった。電話代を気にして、折り返し電話をかけようとすると、お風呂に入ってくるとか、コンビニに買い出しに行ってくるとか、そんな用事が介入してきて時間をズラされることもあった。そのため、ぼくが折り返すと決まってお母さんが電話に出て、「いつも話し相手になってくれてるみたいで、ありがとうね」と丁寧なお礼をされた。  そんなやりとりは三度は経験していたから、巴のお母さんはすぐにぼくだと解ってくれた。 「高志君、巴がどこにもいないの!」  聞けば巴は前日の朝顔を合わせたきり、一度も帰宅せず三十六時間も音信不通らしい。 「こんなこと、今まで一度もなかったから……」  おばさんはかなり動揺していた。
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