1. ひとりがらくちんだから

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帰り道。 徒歩五十分の距離をひとりで帰るのも気楽な一人旅みたいで大好きな時間だ。 図書室で借りた本を一冊手に取ってランドセルを背負い、 ぼくは本の目次に目を走らせながら歩き始めた。 道幅だけは広いひび割れたアスファルトの道には、 ところどころで逞しい草が生えている。 突き破って目を出すとあれよあれよという間に背丈が伸びて、 黄色い花を咲かせる頃にはぼくの腰の高さになってしまう。 その雑草の名前をぼくは知らない。 いつも気になるけれど調べたことは一度もない。 この雑草のような強さがぼくにあればいいのに。 ふと、そんなことを思っている自分に出会った。 ただでさえ歩くのが遅いぼくが 本を眺めながら歩けば 五十分のはずが一時間を超えてしまう。 だから、本当はいけないことだけど 帰り道だけは秘密の抜け道を歩くことが多い。 すぅーと冷たい風が頬や首筋を撫でたと思って見上げると、 ぼくの真上に広がる雲が見た事もないほど真っ黒くなっていた。 ゴロゴロゴロゴロ……という物騒な音が響き渡り、 大気の震えがそのまま肌に伝わってくる。 ポツン、と大粒の水が額にぶつかってきた。 すると、あっという間に大粒の雨がそこかしこを濡らして アスファルトが真っ黒く染まっていった。 慌てて本をランドセルに突っ込んでから、ぼくはぼく史上最高速度で駆けだした。 秘密の道の途中には屋根がついたバス停があるから、 そこを目指してとにかく一生懸命に走った。 雨宿りをしていると、 タッタッタという軽快な足音が近付いてきて、 顔を上げた瞬間、ドドドドドドドドドーーーーンという激しい落雷音に襲われた。 驚き過ぎて硬直していると、女の子の笑い声がする。 視線だけ泳がせてそちらを見れば松島さんがずぶぬれで立っていた。 「満島くんの驚き方、コントみたい」 彼女はよく笑う子だ。 髪の毛が重そうに濡れて、額から雨が筋となって流れ落ちているし、 白いポロシャツの襟から下にかけてすっかり濡れた生地が肌に張り付いていた。 スケルトン。 そんな単語が脳裏に浮かんで、ぼくは目のやり場に困ってまた足元を見つめた。
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