1. ひとりがらくちんだから

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「雨、激しいね!」 大雨に負けないような大声で、彼女はぼくに話しかけてくる。 だけど、ぼくは彼女を見ることができない。 彼女は気付いていないのだろうか。 自分の着ている服が、服としての意味を失っていることに。 恥ずかしくないのだろうか? 気付いていないのなら、恥ずかしいとか思えないだろうに。 ぼくはチラリと一瞥して、 やはりスケルトンになっているシャツの皺だけを見てすぐに目を反らした。 そんなぼくの仕草から、松島さんは自分で気付いてから小さな悲鳴を上げた。 慌てて前を隠している。 ひらべったい胸を両腕で隠した彼女の顔は真っ赤になっていた。 まだ日が沈む前の時間だというのに真っ暗で大雨に閉じ込められたぼくらは、 三十分はふたりでバス停のひさしの下のベンチに座っていたと思われ。 ずぶ濡れで次第に体が冷えてきたせいもあって、松島さんは震え出した。 「……寒いの?」 たまらなくなってぼくは珍しく自分から聞いていた。 松島さんはコクリと首だけを動かして応えた。 膝の上に置いたランドセルを開けて、手ぬぐいを取り出して彼女に差し出した。 それはぼくがいつもお守り替わりに持ち歩いている使い古したタオルだ。 小さな茶色の熊がプリントされていて、 家族で楽しく旅行に出掛けたホテルで貰った温泉用のタオルだ。 思い出をそばに置きたくて持って居たけれど、 本来タオルは濡れた時に役に立つものでなければいけない。 そう思って。 本当は使いたくないけれど、濡れた服でさむがっている彼女にそっと渡した。 「……いいの?」 今度はぼくが頷いた。 ザァーザァー…… 激しなったり少しだけ止んだり、気まぐれなスコールはまだ当分止みそうにない。 空は相変わらず真っ黒くて、ぼくはため息をつきながらそれを見上げた。 ゴロゴロと遠く離れていく雷の音が聞こえ、 間もなく通り雨が終わるのを予感させた。
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