1. ひとりがらくちんだから

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「満島くん。私ね、夏休み前には転校するんだ。まだ皆には秘密だよ?」 空を見上げていた彼女が突然、そんなことを言った。 ぼくは驚いて、また小さく飛び上がった。 雷に驚いた時よりもずっと、本当に驚いていた。 「……お父さんとお母さんがね、離婚するんだ」 そうつぶやいた彼女の目から、大粒の涙が零れ落ちていく。 それを見たぼくはおろおろとしてしまったら、 彼女はこっちを向いて泣き笑いをした。 「もぉ、満島くんたら……、本当に面白いね」 「!!!」 ―――ぼくは何もしていない。 特別なことは、なにも。 突出した才能もなく、根暗で、人と関わるのをずっと避けてきたぼくが。 ―――面白いだって??? それは、雷に打たれたぐらい衝撃的な言葉だった。 ぼくのタオルで涙を拭いた彼女は、 いつものえくぼが愛嬌の笑顔に戻る。 この時、初めてぼくは。 この笑顔はもしかしたら、 ずっと無理して笑っていたんじゃないかって、 そう思ったんだ。 「あ!!虹が……!!」 満島さんの澄んだ声に驚いて、指さす方向に顔を上げると。 見た事もないほどくっきりとした虹の橋が空にかかっていて、 黒い雲間から光の矢が地上へと降り注いでいた。 そんなすごい風景をぼくは女の子と眺めている。 ドクン、と心臓が跳ねた。 雨がすっかり上がって、雨宿りのひさしから彼女がぴょんと飛び出すと、 ぼくに振り向きながら最高の笑顔を見せて言った。 「ありがとう!!聞いてくれて……。 満島くんだけだから、秘密を守ってくれそうな人……」 消えるような彼女の声が微かに震えていた。 ぼくはどう返事をしたらいいかわからずにただ、その笑顔をじっと見つめ返した。 後になって、ぼくも笑うべきだったと気付いたけれど。 彼女はあっという間に居なくなった。 取り巻く人の数が多い彼女と二人きりで話す機会はもうないまま―――。 漸く転校することを担任からクラスの皆に伝わると 益々彼女の周りには人だかりが出来てしまった。 帰り道。
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