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「なあ、鈴木ってさあ、今日、休んでたっけ?」
右横の佐々木が更にその隣の田中に訊いている。
まずい、まずい・・僕のこの病気が他の奴に知られたら・・
「さっき、いたような気がするぞ」
「いた、いた・・けど、今はいない」
「でも、鞄、掛けてあるよぉ」
「トイレに行ったんじゃない?」
「もう鈴木なんて、どうでもいいじゃん。」
そうか・・やっぱり、僕は影が薄いんだ。
人間って、存在感が薄くなり過ぎると透明になるものなんだ。
「ちょっと、そこっ、授業中はしゃべらないように!」
教師の声に右の佐々木も左の加藤も前に向き直る。後ろ席の速水沙織の様子はわからない。
こうなったら・・こうするしか。
僕は思い切って手を挙げた。
その手も僕には見えない。
教師には何の反応もない。周囲の生徒にもない。
僕に見えないものに誰かが反応するわけがない。
すると、背中をペンか何かで鋭く押された感触があった。
「鈴木くん、何してるの? 手なんか挙げて」
振り返ると速水沙織がシャーペンで小突いているのだった。
おそらく、僕の姿は・・速水沙織を除いては誰にも見えていない。
それが僕の出した結論だ。
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