予兆

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 最初は勉強机のスタンドの灯りのせいだと思った。  シャーペンを握る手が薄い・・いや、透明に見えた。机の木目が透けて見えている。  右手をくいと参考書の見開きの前に置いてみた。同じく活字が透けてよく見える。  眼鏡を外し、右手を左手で掴んでみる。  確かにある。右手の感触があるし、肩から右に伸びているのが感じられる。  だが、見えないのだ。右手が見えない。  ドクンドクン・・  心臓の鼓動が一気に高鳴る。  これは何かの病気なのか? 病院に行った方がいいのか。いやその前に、母に見てもらわないと・・  階下にいる母に!  そう思って立ち上がった時だった。  いつも髪を整える時に見ている大きな壁の鏡に、僕の顔が映っていない。  顔どころか、肩も、胸も・・  血の気が退いていく。ざざっと音を立て体中の血液が下に向かって降りていく。これが人生初の貧血だ。  僕は確かに鏡を見ている。  だがそこに映っているのは、僕の後ろ、つまり、本棚に並ぶ文庫本だけだった。  これはまさしく五月病か何かか?  
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