733人が本棚に入れています
本棚に追加
「よっ、鈴木」と後ろから佐藤が声をかけてくる。
そう、僕は「鈴木」という日本で一番多い苗字を持つ男だ。よって没個性的とも言われたことがある。実際に個性に秀でてはいない。
「受験勉強はかどっているか?」
そんな佐藤もごく僕に負けず劣らずのありふれた名字だ。
佐藤の問いを適当に流しながら僕は昨日のことをまた考えていた。
もし、仮に・・本当に透明人間になったら、
不可能が可能になる。
それが可能になれば、僕はやりたいことがある・・
「おい、鈴木、聞いているのか?」佐藤の声に我に返った。
佐藤は顎でくいと前方を指した。
「水沢さんだぞ」
目の前をすっすっと風のように歩いているのは、クラス一の秀才と言われる
水沢純子だ。
5月の爽やかな風が吹く中、健康そうな脚で颯爽と歩く彼女は僕の初恋の人だ。
最初のコメントを投稿しよう!