西陽差す高級車の長い時間

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 そんなことを思いながらも、僕の透明化は続く。体はまだゼリー状だ。  汗がしたたり落ちる。クーラーが効いているので冷や汗だ。  だがその汗は、僕の膝の上に落ちると、ゼリー状と同化する。  どうして、二人は僕の体のことに触れないのか?  恐る恐る青山先輩の方を向いても、彼女の視線はルームミラーに映る石坂さんの顔を見ている。  僕の体は相変わらず差し込む夕陽でキラキラと光っている。  その時、僕は当たり前のことに気づいた。  太陽の光は僕の体を抜けはしない。若干光沢のあるゼリー状の体に反射して光を散らしている。  僕にはそう見えるが、青山先輩や石坂さんの目にはどう映っているのだろう?  光に包まれている状態を「ぼんやり見える」と表現していたのだろうか?  それとも、  元々影の薄かった存在が、本当に薄い人間に見える。ただそれだけのことなのだろうか?
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