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そう受け答えする青山先輩は僕を見ない。
その目は前方のルームミラーに注がれている。
石坂さんがどうしてこんな話を続けているのかわからないが、少し助かっている。
「貧しかった家のせいか、よく、苛められもしました。額の傷は、石を投げつけられた時に出来たものです」
なるほど、ミラーに映る石坂さんの額には、数か所縫ったような跡が認められた。
「それも父から聞いている」そう青山先輩は言った。
石坂さんは「そうでしたね」とまた笑って、
「イジメられたのは。子供である私だけではありませんでした。私の両親も同様です。といっても大人ですから正確にはイジメではなく、借金取りに追われていた・・そういうことです」と言った。
「それは初耳だな」そう青山先輩は言った。「父はそのことは知っているんだろう?」
「ええ・・もちろんです」と石坂さんは言って、
「私の思春期は、そんな頃ですよ。鈴木さんのような年の頃、私には、何一つ良いことはありませんでした」
石坂さんの言葉を受けて青山先輩は、
「そうは言っても、彼・・鈴木くんだって色々あるかもしれないじゃないか」と言った。
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