1人が本棚に入れています
本棚に追加
高校までは、制服が与えられ、クラスが与えられ、クラスメイトが与えられて、その中で毎日同じ時間を過ごす。
そこに私の意思や選択が入り込む余地は勿論ない、そのことが当時はそれがひどく息苦しくて、大変窮屈に思えた。
「東京に出て、大学に行く。せかいは変容して、私は自由を手に入れる」
単純な思い込みで進学を選んで、当然のように受かって、トントン拍子でこっちに出てきたのは良かったけれど、そこに待ち受けていたのは私の想像とは大分違った世界だった。
そこは、まず自分の席を用意するところから始めるせかいだったのだ。
自分の好きな服は着られる、クラスという縛りもない。
そんな自由の先にあったのは、“剥き出しの私”と向き合わなければならない現実だった。
目印もない大海に放たれた、右も左も分からない魚は、美しく輝く魚に自ずと群れる。
何の変哲も無い、面白みもない魚に、用など誰もありはしない。
果たして中身がどんなもんか覗いてやろうじゃないか、なんていう都合の良い物好きはいないのだ。
だって、私もそうだもの。
“剥き出しの私”には、今まで思っていた以上に何の力も、魅力もないということを思い知らされた、この屈辱。
誰も用意してくれない席を、みじめな気持ちで自ら求めに行った。
友達も作ったし、コミュニティに属することだって出来た。
けれど。
心の中では分かっていた。
私はまだ、自己肯定感に飢えている。
女は簡単だ。
だって私が女だから。
女という共通項さえあれば、いつだって話しかけることが出来る。
でも、男は?
あの生き物たちが何を考えているのか、今までの人生において、私にはこれっぽっちも理解出来たことがない。
いつか、そのうち、その時が来れば、私にも、と。
そして何もないまま、男友達さえろくにいないまま、私はここまで来てしまった。
後悔が、ないこともない。
でも、私に何が出来た?
ぼんやりとした顔と、パッとしない体型、席を求めるだけでも人生これまでにないほどの試練、屈辱的だと感じた、私に何が出来たっていうのよ。
あんたみたいな楚々とした女、かぐわしい女を出し抜く何を、私が持ってたというのよ。
何の罪もない、清らかなジャスミンを、私は卑屈な面持ちで睨めつけていたに違いない。
そんな時だった。
ジャスミンの茂みの奥から、ガサッと音がして、半分真っ黒な頭が飛び出していた。
「何してんのさ」
最初のコメントを投稿しよう!