街灯の下、午後九時の早鐘

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高校までは、制服が与えられ、クラスが与えられ、クラスメイトが与えられて、その中で毎日同じ時間を過ごす。 そこに私の意思や選択が入り込む余地は勿論ない、そのことが当時はそれがひどく息苦しくて、大変窮屈に思えた。 「東京に出て、大学に行く。せかいは変容して、私は自由を手に入れる」 単純な思い込みで進学を選んで、当然のように受かって、トントン拍子でこっちに出てきたのは良かったけれど、そこに待ち受けていたのは私の想像とは大分違った世界だった。 そこは、まず自分の席を用意するところから始めるせかいだったのだ。 自分の好きな服は着られる、クラスという縛りもない。 そんな自由の先にあったのは、“剥き出しの私”と向き合わなければならない現実だった。 目印もない大海に放たれた、右も左も分からない魚は、美しく輝く魚に自ずと群れる。 何の変哲も無い、面白みもない魚に、用など誰もありはしない。 果たして中身がどんなもんか覗いてやろうじゃないか、なんていう都合の良い物好きはいないのだ。 だって、私もそうだもの。 “剥き出しの私”には、今まで思っていた以上に何の力も、魅力もないということを思い知らされた、この屈辱。 誰も用意してくれない席を、みじめな気持ちで自ら求めに行った。 友達も作ったし、コミュニティに属することだって出来た。 けれど。 心の中では分かっていた。 私はまだ、自己肯定感に飢えている。 女は簡単だ。 だって私が女だから。 女という共通項さえあれば、いつだって話しかけることが出来る。 でも、男は? あの生き物たちが何を考えているのか、今までの人生において、私にはこれっぽっちも理解出来たことがない。 いつか、そのうち、その時が来れば、私にも、と。 そして何もないまま、男友達さえろくにいないまま、私はここまで来てしまった。 後悔が、ないこともない。 でも、私に何が出来た? ぼんやりとした顔と、パッとしない体型、席を求めるだけでも人生これまでにないほどの試練、屈辱的だと感じた、私に何が出来たっていうのよ。 あんたみたいな楚々とした女、かぐわしい女を出し抜く何を、私が持ってたというのよ。 何の罪もない、清らかなジャスミンを、私は卑屈な面持ちで睨めつけていたに違いない。 そんな時だった。 ジャスミンの茂みの奥から、ガサッと音がして、半分真っ黒な頭が飛び出していた。 「何してんのさ」
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