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「しかし魔王アスタロトは数十の魔物軍団を統べる元帥だ。勇者と何か関係でも?」
俺は色々と腑に落ちない部分があった。メリダは一言。
「勇者とは何でしょう?」
「勇者とは?」俺は気づけば、魔王の立場でその一言を吟味していた。そのとき、ふと思い浮かんだ。
そうだ、勇者とは…。
勇者……魔王は勇者について何も知らないし何も知らない……だけで……。
「俺、勇者役として…魔王と戦うんだっ!!!」
無意識にバスタードソードを握ろうとする。
「な…」メリダはそんな感じで固まった。
俺はメリダを励まそうと、手を差し出した。メリダはその手を握った。
「しっかりして、貴方は魔王よ」
そうだ。勇者ヨシヲは死んだのだ。
それならば、俺は覚悟を決めて言った。
「実は俺の夢は勇者に殺されることだった。」
「え……?勇者を……!!」
メリダは驚いた。物心ついた時から勇者、勇者と周囲は俺をもてはやした。女の子ばかりが生まれる名門戦士の家系。待望の世継ぎが俺、ヨシヲこと、ヨシフ・ウォーズモア十七世なのだ。
「そうだ、だから俺は、魔王とセットでこの世にある!」
俺は勇者に殺される覚悟を決めた。
どちらが欠けても、その瞬間から成り立たなくなる存在。魔王を殺した勇者に何の価値がある。戦って戦って戦い抜いてこそ勇者だ。同じく、勇者を葬った魔王に何が残る。青二才を返り討ちにして世の無常を叩きこんでこその魔王。
結果論で言えばどちらでもよい。
「……!本当…? 貴方は魔王でしょう? 勇者を、殺さないと、」
メリダは俺の手をぎゅっと握った。
「ああ!!」
俺は拳を突き上げ言った。
「勇者を殺してそのあと、勇者の首を持って戻ってこい!!俺に勝っても、俺が負けたらもう勇者は俺のものだ!!!だから、勇者の首を持って魔王を解放してやる!!」
「……良かった、」
俺はまだ不安そうな彼女の顔を見て言った。
「ふふふ、俺は本当にそう信じてるよ、リリス…」
「え?」とメリダは少し動揺した。
パタパタと小さな影が羽ばたいている。
「リリス…」
メリダは羽の生えた小さな女妖精を見やり「そう。リリスを付属してくれたのね」と意味深に呟いた。彼女はどこかほっとした表情だ。
俺は記憶が鮮明によみがえりつつあった。俺は再生魔王だ。勇者を求めてひたすらに闘い挑む。万が一にも敗れた時は黒教会で復活を遂げる。
あの日、俺はメリダの制止を振り切って魔窟に挑んだ。欲にまみれたパーティーが集う場所だからだ。おれはさもしい「勇者」どもを待ち構えた。
「勇者を倒せば、リリスはその役目を与えられる。今度こそ俺は絶対に勇者に負けん」
リリスが茶目っ気たっぷりに笑う。
「そ、そんな……」
メリダは目からぼろぼろ涙を流していた。
「ああ、魔王の城が見える…。もう時間だ…。」
脳裏には赴くべき場所がはっきりとマッピングされている。
エクストラボーナスステージ 東のX-R4。『リリスと頑迷城』だ。
激しいラスボス戦が予想される。俺の出番だ。玉座にデンと構え若造を待つ。
俺はメリダの肩を抱いて、その背中をさすった。
「それは……そう…かもね……、」
そこに魔方陣が展開し、蛍光色のとばりからブラッドレインが降臨した。
「なあ、魔王ウォーズモアよ。」
と魔王が聞いた。
「どうしたんだ、いきなり…」
「俺が勇者一行のパーティーを引き受けるから、お前はこの子の力だけで戦う、それが俺の夢だから、一緒に戦ってやってくれないか…?」
ブラッドレインが俺に懇願する。
「リリスの夢は叶わない…。お前を守るために私がじきじきにお前を守る、お前の夢を叶えると言ったじゃないか」
「それは……そうだけど……やはり馬子にも衣裳というじゃないか。それに初孫の度胸に期待している」
「俺を信じろ、勇者の願いをくじいててやる、魔王族の仲間として、仲間たちの未来を守るのは、俺の使命だからな。」
「ありがとう……。」
「それにしても、リリスはやってくれるのか、頼もしいことじゃないか」
俺とリリスは二人揃って魔王に感謝すると、城へ向かって歩き始めた。
「今度こそ退治ないで帰ってきてちょうだい」
メリダの言葉がしみると、俺は思い出した
「魔王ブラッドレイン。私と出会う少し前の話です。この世界は私によって救われました」
俺は魔王に、メリダの過去を話した。
魔王は聞いてくれた。
「なるほど、勇者という存在は、必然であり、この世界で言う魔王も勇者も変わりない。勇者ヨシヲは女神メリダの願いをかなえ両世界を平定し、争いのない世界を作った。それがこのざまだ。平和とはまっこと扱いづらいものよの。
これから我々はどう生きようか。そして、勇者とは、何か、魔王とは何か、常にレーゾンデートルに脅かされてきた」
ブラッドレインはほとほと参っているようだ。
「私はあなたを選んで、ここまで来ました」
魔王は言ってみる。そして彼の真摯な瞳が何かを語っている。
「勇者であるか。勇者でないか、そんな属性は些末事、勇者と言う存在は我々にとって必要悪だ。しかし、これからどうなるのか、知らないが…。勇者がいたら、人間は滅びない。もしくは、我々に勝てるかもしれない。その時は共に戦おう。お互いの世界を救おう。困難に挑み勝ろうとする闘志こそがまさに雄者。雄であらんとすれば、世界も救える」
魔王のその言葉で、俺はこの世界は救った。
そして生まれ変わる。
これが、俺が選んだ道だからだ。
頑迷城のステージクリアはリリスの活躍で阻止した。爆発炎上するパーティーの残骸を踏み砕いて勇者は逃げて行った。あの分では麓までもつまい。
山門にはアスタロト軍最凶の難敵。蠅王ベルゼブブが待ち構えている。その配下にある害虫どもは傷口に容赦なく群がるのだ。満身創痍の勇者にとって泣き面に蜂いや蠅となろう。
そして完膚なきまで破壊されたバイオニックは業者に回収され黒教会で再生される。この世界は製造れては破壊、再生されては、また壊れる。そのループで成り立っている。俺だってあの魔族が大挙した日、ブラッドレインに聖剣を突き立てて敗れた。
そして1年前、メリダの気まぐれで復活させられ闘争回路がバグったまま闇雲に敵を求めて飛び出した。
結果は案の定、大破だ。メリダは俺の残骸を拾い、黒教会にゆだねた。
その繰り返しだ。あの日、俺はメリダに約束した。「ノルマから解放してやる」
前途ある若者をいくら大義の為とはいえむざむざ轢死させる必要はない。無意味な死と転生を繰り返すよりはバイオニック・メカとして壊れ、修繕されるほうが楽というものだ。
輪廻転生は黒教会が一手に担うので彼女を解放する約束は守れた。
そして、もう一つ俺はあやまちをおかしていた。
戦いのない世界は闘争本能にとって優しくない環境だ。もう少し早く勇者と魔王の依存関係に気づけばよかった。
しかし、それもリリスが何とかしてくれるだろう。俺のかわいい転生妹よ。
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