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前編
もう綺麗ごとは沢山だ。轢かれた妹は帰ってこない。死んで花実が咲くものか。異世界転生なんか大嘘だ。
俺は耳の尖ったコスプレ野郎を罵った。とぼけた顔をしても俺には見える。見えているんだ。壁に人の顔を見たり虫の知らせを聞いて育ってきた。死神の魂胆のなんぞお見通しだ。
一気に捲し立てたら背中に翼を生やした奴がシュンとなった。腰はキュッと締まっていて栗毛色の髪が背中まである。見た目は美人だ。しかしこいつはこの世の者じゃねえ。原型を想像したら吐き気を催すような男かもしれない。
とにかく、唯一無二の肉親を奪った奴を許せない。
歩道は血だまりが出来てパトカーや救急車や野次馬が集まってきて大騒ぎになっている。ガードレールに四トン車がめり込んでいて、運転手が事情聴取されている。妹はストレッチャーの上だ。救急車が動く気配はない。何よりこの気色悪い女が降りて来た以上、助からない。俺は罵詈雑言の限りを浴びせた。
「……寿命だったんです」
いけしゃあしゃあとする死神を俺はしかり飛ばした。
「うるせえ。お前がミスったんだろう。故意にな!」
すると女は泣き落とし戦術に出た。
「だって仕方なかったんです」
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