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1章
「嘘だ。そんなの。」
そうとしか思えなかった。だってあんなに、楽しそうに話してたじゃないか。一緒に行こうって言ってたじゃないか。
僕達が、仲良くなるのにそう時間はかからなかった。たまたま入院した病院の待合室(というかテレビが置いてある広めの場所みたいなとこ)で、出会った彼女は、僕の好きなバンドの昨年のツアー限定のストラップをスマホにつけていた。こんなところでファンに会えると思わなかったから、ついテンションが上がって僕は声をかけた。彼女も同じことを思ったらしく、僕達はとりあえずLINEを交換して、少しずつ話し始めた。
最初は、お互い好きなバンドのこと。他に好きなバンドのこと。そして、お互いのこと。
病院で病気のことを聞くのはさすがにまずいと思っていたから、彼女の病気は知らなかったけれど、何度もLINEを交わしたし、時間を決めて待合室で話したりもした。嬉しかった。ただ、退屈だった入院生活が少しだけ輝いてた。
「そのストラップ売ってた時ののツアー、チケット取れなくて行けなかったんだよね…。いいなぁ。」
僕がそんなことを言うと彼女は、
「いいでしょう?あげないんだから。」
なんて悪戯っぽい微笑みを浮かべるのだった。僕は、その笑顔が好きだった。これが恋として好きなのか、友達としての好きなのかなんて分からなかったけど、彼女と一緒にいると心地よかった。
退院したら絶対に一緒にライブに行こうと何度も約束した。その時の彼女の笑顔が1番好きだった。
僕は元々、短い期間の入院だったので嫌でも彼女と別れる日が近づいているのは分かっていた。もう少し、一緒にいたいなぁなんて思ったりもしたけど病院にいるのもなぁ、なんても思った。まぁ、でも、今の時代、SNSもあるし、繋がりはきれないし。名残惜しくはあったが、彼女より先に僕は退院した。
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