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それは二十世紀後半の事。
「ん……」
彼女が目を覚ますとそこは見慣れない部屋だった。
ふかふかのベッドは今まで眠った事のあるどのベッドよりも寝心地がいいと思った。部屋は広く豪華だ。
彼女が今いるベッドルームの扉は開け放たれていて、その扉の先はリビングだろう。見ただけでも豪華なソファが置かれているのが分かった。部屋の何から何までを見ても見慣れない、彼女には用途も分からない、だが高価なものだと彼女でもすぐに分かる品々が取り揃えられている。
(ここは一流のホテルだろうか?)
一流のホテルがどんなものかも彼女は知らないが、雑誌などで見るそれとよく似ていた。
ベッドの中でもぞもぞとしていると壁を叩く音が聞こえてきた。
彼女が音のした方に目を向けると、そこには背の高い二十代後半くらいの男性がこれまた一目見ただけで分かるほど品のいい黒のスーツに、すらっとした長い手足を通し綺麗に着こなして立っていた。
先ほど見ていたソファが置いてある部屋から、今彼女が居るベッドルームへと繋がる開け放たれた扉をその男性は叩いたようだった。
男性の顔は少し疲れた様に影が差していた。だがそれすらも彼の端正な顔立ちを引き立たせる演出になっていた。
愁いを帯びた綺麗なアーモンド形の目は鈍く光を宿し、彼女をじっと見つめていた。
「ベルナルトさん……」
彼女がそう呟くとベルナルトと呼ばれた男性はゆっくりとベッドに近づいた。
「ゆっくり眠れたか?」
「はい」
「そうか。茉莉花、食事にしよう」
手を取られベッドから立たされた茉莉花は戸惑ったようにベルナルトの背中を眺め付いて行った。
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