【1】鳥籠の中へ

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 「落ち着け。私はベルナルト。シルヴァーニ氏の財産相続者だ」  「財産相続……?」  「君の名は?」  「茉莉花。茉莉花・エゴロフ……です」  茉莉花は財産相続という言葉を聞き少しだけ落ち着いたが、戸惑った様子でベルナルトを見ていた。  自分を置いての相続人とは、ベルナルトはシルヴァーニと深い関係なのだろうと茉莉花はそう思った。ベルナルトは茉莉花から目を逸らし俯きぶつぶつと口を動かしていた。  「そうか。茉莉、花……」  ベルナルトは少し詰まりながらも茉莉花の名前を呟いた。  「言いにくかったらジャスミンでもいいです。周りの人はそう呼びます。茉莉花って日本の名前だって。ジャスミンを指す意味があるってお父さんが言っていました」  「いや、君の名前は茉莉花だろう? ジャスミンと呼ぶのは失礼だ」  茉莉花は困惑した表情でベルナルトを見ていた。そんな風に言われたのは初めてだったのだ。日本の名前でからかわれた事はあれど、その名を他人が尊重してくれたのは初めてだった。  突然ベルナルトはカバンから一枚の書類を出し茉莉花に見せた。  「なに……? この額……」  「君のお父さんシルヴァーニ氏は多額の借金を抱えていた 」  「!? そんな話……」  「私がその額を肩代わりすることとなった。その代りシルヴァーニ氏の財産、彼に関する全ての所有物、権利、……彼の持つすべてを私が貰い受けるという契約をシルヴァーニ氏と生前交わした」  「そ、そんな……。じゃあ家は? お父さんの研究は?」  「全て私のモノだ」  ベルナルトはグイっと茉莉花に顔を寄せると、茉莉花の顎を掴んだ。吐息が掛かるほどの距離で、あと数センチで茉莉花の唇とベルナルトのそれは触れ合うところだ。  「……珍しい。東洋人だな? 血は繋がっていないな?」  「そ、それがなんですか? 確かにお父さんとは血は繋がっていません」  「へぇ……。彼は私にも君の存在を黙っていたが、君は何なんだ?」  「何って……。私は……、シルヴァーニ・エゴロフの娘です」  ベルナルトは見定めるように茉莉花を見た後、顔を離した。茉莉花は眉を寄せベルナルトを見ていた。
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