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むかし、どうしても謝らないひとがいました。
謝ることは、自分にとって恥ずかしくて、いけないことだと考えていたからです。
みんなは、「違うよ」とそのひとに話します。
でも、聞き入れてくれませんでした。
ひとりぼっちになっても、口げんかになっても、どんなに悪いことをしても、どんなに傷つけても、「ごめんなさい」は口から出てこなかったのです。
謝らないひとは、自分を強いと勘違いしていました。
減らず口と屁理屈は、誰よりも得意でした。それが強さだと、思い込んでいました。
大きな丸い月が浮かぶ夜、謝らないひとはたらふくお酒を飲んで、ごちそうを食べて帰る途中でした。
結婚式があり、誘わないとまた口げんかになるだろうと、みんな仕方なく誘ったのです。
みんなが避けていることを、謝らないひとは自分の強さだとすっかり、威張り散らしていました。
せっかくのごちそうやお酒にもケチばかりつけて、謝らないひとだけが、ごきげんになっていました。
お嫁さんは悲しそうにうつむき、お婿さんは唇をかみしめていました。
丸い月が、青白く帰り道を照らしています。
「おい」
謝らないひとが、月を見上げて言いました。
「いつもいつも陰気な光ばかり出して、お前なんか使えない極みだな」
月は黙って、照らしていました。
翌朝から、謝らないひとが住んでいる町は昼も夜も、暗闇に包まれてしまいました。
月を照らしていたのは、太陽です。
謝らないひとは、知りませんでした。
自分が嘲った相手は、月を通して、怒りをあらわにしたことを。
太陽は、ずいぶんと軟弱なものだな。
謝らないひとは、太陽や、まわりがのぞんだ言葉は、やはり発することはありませんでした。
みんなは嘆きました。
太陽も月も、あきれて二度と姿を出さないと誓いました。
こうして町はずっと、墨をたらしたように暗くなってしまいました。
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