未来の先で輝くもの

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未来の先で輝くもの

 これまで幸せだと感じたことなどあるだろうか。  もちろん母が存命だった頃は毎日が幸せで仕方がなく、基睦が邸に現れてから楽しかったのは確かだ。彼は僕の知らない外の世界を教えてくれ、今でもそれは感謝している。  けれど秋良と出逢ってからというもの幸せに思わない日など一度としてなく、それは一分一秒たりと無駄にはせずに心に刻み噛みしめている。  僕を虜にして已まない秋良だからこそ、基睦もまた恋に落ちるのは分かっていた。だけど絶対に負けはしない、ライバルだからこそ手は抜かず徹底的に叩きのめす。  母が亡くなり父によって現実を突きつけられた決別の日。どうして僕は生まれてきたのか分からなくなり、自分の立ち位置が見つけられず生きるための貪欲さを失った。  おかげで馬鹿なことばかりして、当時の記憶を封じ込め目を背けなければ心が病んでしまう。ときには大学や街角で愚かだった自身の影に触れ、大きな過ちとして後悔が押しよせる。  知られたくはない、穢れた僕の過去だけは。  とはいえひとり身であれば苛むこともなかっただろう。だけども今の僕には守りたいひとがいる。穢れのない純真な魂を、絶対に僕の過去で傷つけたくはない。  いつの日か最大の危機が立ちはだかったとしても、守るべき者に知られないよう速やかに叩き潰して排除するつもりだ。たとえどんな手をつかっても。  僕に生きることの喜びを教えてくれ、毎日のように幸せを与えてくれる秋良という存在。彼と出逢わなければ、僕は未来など見ることも望むこともなかっただろう。
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