僕にとっての世界

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 トラックを降り徒歩で岬まで向かいます。初めは朝もやで見えなかった建物は近づくにつれシルエットを見せ、いよいよと目的の教会がすがたを現しました。  ひっそりと佇む教会に崇高なものを感じた青年は導かれるように扉を開きます。そして出逢ったふたり。ひとときを教会で語り合うと、詩音は彼を両親の許へ案内しました。  それ以降、青年はプロヴァンスにホテルを移すと、毎日のように詩音の許へ伺います。初めは警戒していた詩音の父親も、幾度と顔を合わすうち青年の純朴さを知るのでした。  けれど青年に残された時間はもう永くはありません。事情を話すと詩音を連れ各地を見て回りました。すでに青年は心から詩音を愛していて、生涯をともにしたいと心に決めます。  春日部の理事長それに父である院長に気持ちを報告すると、詩音に残りの人生をともに生きて欲しいとプロポーズしました。  その後ふたりは両家の反対を押し切り、海辺の教会でひっそりと愛を誓い合うのでした。  自由の時間があと一か月を切った頃、青年のスマートフォンにホリデー終了を告げる連絡が入りました。片田舎の娘と結婚すると聞いた青年の父親は激怒し、狭心症を引き起こし還らぬ人となったのです。  父親が鬼籍についたことで、青年は一か月も早く義務を果たさなねばいけなくなりました。詩音の父親は婚姻を認めてはおらず、一連の事情を理解のある母親に打ち明けました。  母親は娘に気持ちを問います。あなたの人生は誰のものでもない、思うように生きなさいと娘の背中を押してあげるのでした。そして駆け落ちのように彼女を連れ帰国したのです。  帰国してからも様々な障害がふたりを待っていましたが、好きあうふたりを引き裂くことなどできません。最後まで愛を貫き通した結果、理事長は折れ一族も認めざるを得ません。  こうして青年はフランスの薔薇を手に入れ、詩音は命を散らすその日まで彼の寵愛を受けるのでした。
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