記憶のかたすみに存在するもの

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記憶のかたすみに存在するもの

 いつの頃からだろう、僕の心から光が失われてしまったのは。それはとても輝いていて、ぽっと火が灯ったように温かい気持ちになれるもの。  何事も純粋に受けとめられた少年の日々が終わると、後に残ったものは諦めと空虚それに飢えと渇きだった。  母さんが生きてさえくれていれば──そんなことを幾度となく考えもした。そうすればもっと違う未来が開けたかもしれない。けれどそんなこと考えても無意味だ。  母が病気で亡くなると、淋しさからか父は新しい妻を迎える。初めこそ毒をまき散らすことなく控えめだった義母も、父との子を身ごもると徐々に本性を現すようになった。  手始めに義母が狙いを定めたのは”当初より君臨する春日部の妻”という地位。詩音という存在を根底より抹消すると、今度は父を支配し洗脳をおこなった。  その結果、邸内のみならず春日部という組織に身を置くすべての者の長に君臨し、絶対的な発言力をもって独裁(・・)という名の毒で蝕んだ。  そのうち将臣が生まれると、嫡子であり長兄の僕を疎ましく思うようになり、次男でありながら春日部を継げるようにと義母は僕を追いだそうとする。  迫害の手は日を追うごとに酷くなり、中等部にあがる頃には僕は絶望しか感じなくなる。一度でも光を失えば、あとは心を閉ざし闇に身をおくより他ない。  後継者としての座を辞退すれば楽になる、そう思いつけば後の行動は簡単だった。義母の目が届かない場所で暮らしたい、父に願ったその日のうちに僕は邸を出られた。  父が所有するマンションのひとつを与えられた僕は、執事の田中とともに無味無臭で色のない新たな生活を送ることになった。  中等部三年。十五歳の終わり。  これは僕にとってのダイアリー、光さす日の想いでをふり返る──────
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