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彼女と、初めて出会ったのは。
よく晴れた暖かい、風もなく穏やかな日曜日の午後のことだ。
「ごめんください」
「あの、私は田村と申しますが、先日落としてしまいました財布を、拾い届けて戴いた方はいらっしゃいますでしょうか。」
ああ、そう言えば3ケ月くらい前に、拾った財布を警察に届けた事があった。
あの時は、財布にカードが思いのほかたくさん入っていて、一枚一枚確認させられた。
20枚くらいあって、いちいち確認をさせられ、うんざりした。
もう、絶対に財布なんか拾ったりしないと心に決めた。
あの時の、持ち主だった。
「本当にありがとうございました、中身も全部間違いなくありました。」
当たり前でしょ! ねこばばなんてするものか。
「これは、ほんの少しですが、わたくしのお礼の気持ちです。」
そう言って、その女性はお礼の品を私に差し出した。
その時、ふっと匂いがしたような気がした。
なんだろう、この気分は。
この人は、何かを迷っているのだろうか。
何となく、そんな事を感じて、私は何故か不安な気持ちを抱いた。
この、不安な感じは何なのかわからない。
ただ、この女の人は大丈夫だろうかと、匂いとともに私の頭の中に、感覚として入ってきた。
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