第十三章

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再びガモン族の男女は大きな布の端を握り、子供達とマクリンを覆い、見物者の視界から彼らを消した。 次に十代半ばの少年少女が二十人程現れた。中心にいるマクリンは先程の楽し気な軽快さから、今度は伸び上がるような旋律で笛を吹く。彼らは笛の調子に乗り、男女一組になり向き合って踊る。最初は腕をからませて愉快に回り、陽気に互いの手を叩き、それから両手を握り合って、男が高く跳躍し女の頭上を越えきれいに着地すると、女も同じ動きをして背後から男の広げた股の間を足先からさっと抜けて、男は女の手を軽やかに高く上げる。 更に互いに後転して離れたかと思えば、すぐに前転して相手に接近する。少年少女も頭に付けている羽根の冠が、彼らの舞を引き立たせた。 彼らの踊りは前の幼児のものとは違い、全体が非常に統率されていた。それを指揮するマクリンの笛も同様だ。 男がモリを握ると、女はからかうように体を揺らす。男がモリを突くと、女はひょっひょっひょっとかわす。女はモリを奪い、先端を男に向ける。男が正面を向いたまま小さく跳躍しつつ逃げると女はせいやっとモリを突き、男はモリの先端を握って後ろにぽーんと飛んで、やられたーと蹲り、すぐに体を跳ねさせて女に近づき、相手の股に両肩を入れて全身を持ち上げ、女を祝福するように右に左に相手の体を振った。女は男の頭上で嬉しそうにモリを回す。 それはドマ族もやったゼクタ狩りの演技だ。 ガモン族の少年少女は、十代半ばの、異性を自身のつがいとして強く意識する状態と、ヴォルト社会では一人前として認められる単独でのゼクタ狩りを立派に表現した。 見物者達もマクリンの軽妙かつ巧みな笛の音に気持ちよく体を刺激される。 へえ、ガモンの舞踊は赤ん坊からの成長が主題かよ、マクリンも賢しげなことをやりやがって、ハルタンは落ち着きなく瞬きをした。 あいつら向こうの密林の中で待機してたんだな、布で覆われればこっちからは見えないし、アゴンは魔法のように人物が入れ替わるガモンの舞踊演出にマクリンもしっかり準備しやがったなと思った。 ジュゼは、マクリンの性格からしてどうせ人数頼みの大雑把なものかと予想したけど、中々どうしてあの女、いいものを考えたじゃないのと少し歯ぎしりした。 少年少女の舞が終ると、彼らは布で覆われ姿を消す。次に最初に登場した母子達が現れた。ジュゼ達のところにいたガモンの成年男子が母子に笑顔で近づき、女の手を取り赤ん坊を肩に担いだ。母親は愛おし気な眼差しで男の胸に両手を当てて、男は逞しく女の腰に手を回し、二人は小刻みにゆったりと足踏みをしながらその場を回った。赤ん坊は元気に両腕を振る。 五組の家族の踊り、マクリンの笛は一転して優し気な旋律となった。家族の誕生を祝うように。 赤ん坊から子供達、子供達から少年少女、そして少年少女から青年へと、登場人物によって鮮やかに笛の調子を変えるマクリンに見物者達も唸った。 笛の音の圧力は姉ちゃんのほうが上かもしれんけど、マクリンも器用に吹くじゃねえか。 キトも大したもんだとマクリンを見る。ティックとルバもマクリンの笛に感嘆の面持ちだ。リザは、私だって練習すればあれくらい、などと思ったが、やっぱり無理かなと心中で訂正した。 フーガは、確かにこれは取りを務めるのに相応しいかもなと感じる。 そしてガモン族の舞踊は最高潮へと向かう。 母子と共に踊っていた男の一人が指笛を鳴らした。密林の中から、子供達、少年少女達がわーっと出て来て、五組の家族を円状に囲んで四肢を躍動させる。広場にいた他のガモン族の者達も、皆が一斉に彼らのもとに走った。 家族を中心にして、子供達、小年少女、青年男女が三つの円を形成して回転しつつ一気呵成に波打つように踊り始めた。マクリンの笛の旋律も大らかさと激しさと鋭さを交互に繰り返して広場に響く。首長の笛の音に合わせて皆が声を出して歌いつつ全身で舞う。 前転、後転、そして宙返り、逆立ちから高い跳躍が縦横無尽に披露され、少年少女と青年男女が繰り広げる、ヴォルトが生来有する瞬発力を基調としたのガモンの踊りは一人一人の動きが些かも乱れることなく展開された。多くの幼児がその中を面白そうに走る。 それはドマ、ルディン、カエイの三倍近い人数で行われた。 人数が多いせいもあって彼らの声と舞踊は広場から密林へとあふれ出しそうな勢いがあった。 見物していたドマ、ルディン、カエイの者達も、ガモン族に押し出されそうな感じを受ける。 最後にマクリンが笛を下ろして両腕を空に掲げて、高い声を一定の調子で長く三度発して、彼らの舞踊は終わった。
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