第十三章

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朝から儀式を始めたせいもあって日はまだ高い位置で四人を照らした。 今日は密林に濃い靄は全く漂わず、木々も草草も燦々と陽光を受けて鮮明に風に揺れている。森の周囲も先もよく見通せた。 「珍しいねえ、久々の快晴じゃないのよ」 マクリンは機嫌良さげに溌剌と歩く。彼女の口調には先程のガモン族の舞踊による陶酔感がありありと表れていた。 「特別な日だからな、天におわすホランが俺達の舞踊をよく観賞できるように森も今日は靄を追い払ったんだろ」 アゴンが言った。アゴンは持っていたモリで右肩をとんとんと叩く。他三人もモリを担いでいた。 「そうか?ホランは天におわすだけじゃなく森そのものだ。靄なんぞいくら濃くたって、それでホランの視界が邪魔されるなんてことはないさ」 ハルタンが彼らしいことを口走る。 「へえ、だとしても晴天の方が儀式に相応しいさ。それで何か不都合でもあるのかよ」 アゴンが反論する。ハルタンは、いや別に全くないなと返す。 「いつものように靄がかかっていても、それはそれで舞踊の雰囲気を高めたんじゃないの」 多少見づらいところがあったにしてもね、ジュゼは中間の意見を発した。アゴンとハルタンは、確かにそうかもなあと答える。 「雰囲気という点では、靄よりは空が曇ってた方が良かったかな」 薄暗い方が気分が盛り上がったりして、マクリンは一面の青空を見上げた。直射日光がマクリンの両目に当たり、彼女は強く瞬きをする。 「雨が降ったらどうだよ、カエイは舞踊出来なくなったかもな」 派手に火を使ってたからよ、アゴンはハルタンを見る。 「問題ないさ、それくらいで俺達カエイの情熱が萎むことはない」 ハルタンは即座に返した。逞しいねえ、アゴンはわざとらしく頷いた。 「ま、どっちにしろ天候に恵まれたのは私の人徳でしょ」 マクリンが朗らかに言う。それは良かったな、アゴンが笑う。 「あーら、文句でもあるの」 マクリンはアゴンの腰を叩いた。アゴンは、ふんと無視する。 「その通りさ、マクリンの心がキレイだったからだよ」 ハルタンがそっけなく言うと、マクリンはそういうのは気持ちを込めて伝えてくれないと返した。 「マクリンは開催主だしね、ガモンは私達より明らかに人数も多いわけだし、それだけ皆の願いが天に通じたんじゃないの」 今日は晴れますようにって、ジュゼは先程のガモンの舞踊にからめて皮肉を言った。 「何なの、ジュゼ、あなたは私達の舞踊を一番優れたものだと称えたじゃない」 マクリンは眉を寄せる。 「は?一番?私はそんなこと言ってない」 ジュゼも表情を険しくする。 「おい、一番は俺達ドマだろうが」 ルディンは弱々しくて、カエイはバタバタしてただけで、それを火の勢いで誤魔化してよ、ガモンは嫌味ったらしくうじゃうじゃ人を使いやがって、アゴンが吠える。 「ドマが一番だと、あんな子供じみた踊りがか。最も優れていたのは、雄々しくホランの精神を体現したのは俺達カエイだ」 間髪入れずハルタンが声を上げる。 「子供じみただと、もう一回言ってみろ」 アゴンがハルタンに詰め寄る。ハルタンもアゴンを睨みつける。 「弱々しい?繊細と言ってくれない、あんたの頭じゃとても理解できなかったかもねえ」 ジュゼもアゴンにケリを入れるような口調で言った。アゴンは歯ぎしりする。 「それとハルタン、雄々しくホランの精神を体現て、そんなけったいな屁理屈ばかりこねてるからカエイは嫌われるのよ」 ジュゼが続けて本音を浴びせる。 「嫌われる?何で俺達がルディンに好かれなきゃならねえんだ」 ハルタンは喚く。ジュゼ、アゴン、ハルタンの間にはバチバチと敵意の視線が飛び交った。 「情けないことねえ、こんな連中を温かく歓迎した私は何て心が広いんだろう」 マクリンは両手を自身の胸に当てて呟いた。 「心が広いだと、おまえもあんなやかましい踊りを披露して俺達の神経を逆なでしやがってよ」 ハルタンが今度はマクリンに歯をむく。 「ハルタン、やかましいってあんたね、卑屈になるのも大概にしなさいよ」 マクリンは地面を踏みつける。四人は互いに強く体を強張らせた。
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