庇護下

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庇護下

「学園ではまだ公表していないので、暫くは兄妹である事は内密に。遅くとも夏までには公表するので、それまでは隠し通す様に」 「「「仰せのままに」」」  謁見が終わってから、用意された部屋に二人で入り、彼女が落ち着くまで手を握ってあげた。  やがて彼女から声がかかる。 「あの、もう大丈夫です」 「突然の事で混乱したのも無理ないわ。けれども、現実として受け止めなくては駄目よ」 「はい。でも本当に私が、国王様の子供なのでしょうか?」 「まず、マールのお母様は誰だか聞いていた?」 「いえ。物心つく前に亡くなった事しか、聞いていませんでした」 「マールが幼い頃から今まで、何か大きな事故は起きた?」 「何も有りません。田舎なので毎日、平穏に暮らしていました」 「マールが学園に入学出来たのは何故?」 「突然手紙と一緒に、金貨が送られて来ました。手紙の通りにしたら、馬車で街まで連れて来て下さいました」 「マールは魔法を使った事は有る?」 「有りません。学園で必要だからと魔導書の購入はしましたが、使い方が解りません」 「マールが肌身離さず、持ち歩いている物はない?」 「有ります。亡くなった母の物だと、渡されていた物です」  首から下げていた、紐の先に括り付けた何かを取り出す。  それは装飾が施されたペンダントだった。  蓋が開けられる様になっており、開けてみると中には文字が刻まれていた。 「愛するマールへ愛を込めて、ビスク・ギゼア・ボルクス。国王様のお名前ね。それと、第二王妃の名前も刻まれているわ」 「知らなかった・・・私、ずっと田舎暮らしだったから、国王様や第二王妃の名前なんて聞いた事なかった」 「このペンダントは国王様が公表されるまで、他の誰にも見せてはいけないわよ?」 「はい、そうします」 「今のマールの身分は、側から見れば田舎娘よ。正体を明かせるまでは、その事で虐めにあうかもしれないわ。だから暫くの間は、私の取り巻きとして庇護下に入りなさい」 「良いのですか?」 「幼馴染みであるカールの妹を、放っておける筈がないでしょう? 今は私が貴女を守ってあげる」 「お姉様・・・」 「こそばゆいけれど、私を姉として慕うのはある意味、カモフラージュになるでしょう。明日からは、私の側を離れない様にね?」 「ハイ、ローズお姉様!」 「明日も早いから、お風呂に入って眠りましょう」 「お背中流します!」 「じゃあ、お願いしようかしら」  こうして私の令嬢生活、一日目が終わった。  主人公にお姉様扱いされる悪徳令嬢、裏ルートでしかなし得ない関係よね。
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