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「――ッ!」
優介は飛び起き、部屋を見渡す。当然、そこに楓がいるはずもない。
彼女がいない現実を改めて突き付けられた気分になった優介は、力なく俯いた。
「……楓……」
頭を抱え、彼女の名前を口にする優介。
すると、ふと、夢のことを思い出した。
それは、どこまでもリアルな夢だった。部屋の作りも、ゴミの散らかり具合も、全てが今あるままの状態だった。
では、彼女はいったい何を指さしていたのだろうか。何を伝えたかったのだろうか――。
優介はふらふらと立ち上がると、彼女が立っていた位置に移動する。そしてゴミを掻き分けると、それを見つけた。
「……これは……」
それは、パソコンだった。楓との毎日が詰まり、壊すことが出来なかった、思い出の宝箱。
「……」
どうしてそうしよう思ったのかは、彼にも分からない。優介はパソコンを手に取ると、埃まみれの机に置く。そして電源を入れ、インターネットに接続させた。
すると、二通のメールが連続で届いているのを見つけた。
一通目を開く。日付は、楓の死を知った翌日。送り主は、『kaede』……。
しかし、楓はもういない。おそらく、差出人は凪咲だろう。
冷めた視線のまま、内容に目を通した。
『優介くん。凪咲です。
このメールを見てくれているかは分かりませんが、あなたに、どうしても見てほしいものがあります。
楓は亡くなる前に、私に、あることをお願いしてきました。
自分の言葉を、メールで打ってほしい。そしてそれを、もし優介くんが自分の死を知った時に見せてほしいと。
そのメールを、あなたに送ります。
見るかどうかは、あなたに任せます。』
「……楓が?」
優介の目に、僅かに光が宿る。
そして彼は、震える指で操作し、メールを開いた――。
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