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優介と楓は海に辿り着いた。
目の前に広がる海は静かに、穏やかに波音を立てる。たなびく波の轍は次々と寄せては帰り、遠くに見える灯台は光の筋を伸ばす。水平線は藍色の空に紛れ、空と海を一つにしていた。
優介と楓は浜辺に座り、その景色を静かに見つめる。
「……誰もいないね」
楓が呟く。
「そうだな……」
「静か、だね」
「……そうだな」
密やかに言葉を交わす二人。会話こそ少ないが、その時間は、確かに二人だけのものだった。互いの距離を狭めて、身を寄せて、心を添わせて、絵画のような光景の一部へと溶け込んでいた。
「……ねえ、優介くん」
「ん?」
「優介くんは、どうして私と一緒にいてくれるの?」
「どうしてって……」
「私、体弱いし、いつも家にいるし……。一緒に遊びに行くことも学校に行くことも出来ないし、話すことしか出来ないし……。それなのに、どうして優介くんは私の家に来てくれるの? 一緒にお話ししてくれるの?」
予想外の質問に、優介は言葉に詰まる。彼にとって、その答えなど一つしかなかった。それを口にすることが怖くて、躊躇って、彼は別の言葉を着飾る。
「……楓と一緒にいることに、何か理由がいるのか?」
「それは……」
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