秋のある日

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秋のある日

 まだ背の低い優介は、黄色の帽子をかぶり、街の中を走る。手に小銭を握り締め、行き慣れた駄菓子屋へ行くために。  坂道に沿うように植えられたイチョウの木々は、赤や黄色の葉を纏う。風で舞い散ると、石畳に鮮やかな絨毯が敷かれた。  すると、ふいに突風が優介の体を通り抜ける。  その拍子に彼の帽子が飛ばされ、道沿いの家の中へと吸い込まれた。 「あー……」  優介は足を止め、その家を見つめる。そのまま置いて帰れば、おそらく両親に怒られることだろう。  仕方なく、彼はその家の門を開けた。  その家は大きかった。  高い塀に囲まれ、その内側には広い芝生の庭がある。佇む住宅は少々古かったものの、アパート暮らしの優介にとっては、まるで城のように見えた。  初めて見る豪邸と呼ばれるものを、優介は口を開けたまま見渡す。そして思い出したように帽子を探すと……あった。芝生の中央に、黄色い帽子が。  優介は安堵し駆け出す。その時……。  家の中から、白いワンピースを来た少女が出てきた。  彼女はピンクのスリッパを履き、芝生を歩く。そして帽子を手に取ると、優介の方を振り返った。 「……あなたの帽子?」  優介はゆっくりと頷く。  すると彼女は笑みを浮かべ、優介の元まで歩み寄る。そして彼に帽子を渡した。 「はい。どうぞ」 「あ、ありがと……」  優介は帽子を受け取りながらも、彼女から目を離せなくなっていた。  身長は彼よりも大きい。色白で、栗色の長い髪は静かに揺れる。そして向ける微笑みは、とても暖かいものだった。 「……あなた、お名前は?」  少女に声をかけられ、優介は我に返る。 「え? ゆ、優介……」 「優介くん……。私は、楓よ」 「楓……さん?」  名前を呼ばれた少女は、イチョウの葉が舞い降りる中、満面の笑みを浮かべるのだった。
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