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ぽたり、と。
暖かい雫が、パソコンのキーボードに滴り落ちる。
優介は涙を流しながら画面に手を触れ、彼女の最後の言葉を目に写していた。
「楓……」
そして彼の中に、彼女との日々が映し出される。
初めて会った日、笑いながら話をした日、彼女を自転車に乗せた日、彼女と口づけをした日、そして、彼女と最後に話した日……。
数々の思い出は映写機のように写し出されては消えていく。その中の彼女は、変わらぬ笑顔を振り撒いていた。
彼女の表情が、仕草が、声が、優介を蝕んでいた痼のようなものを、ゆっくりと溶かしていく。それが目から溢れ出し、止まらず、優介は嗚咽を漏らした。
「……俺もなんだよ……。俺も……お前から……色んなものを貰ってたんだよ……」
辛い時も、哀しい時も、苦しい時も、いつも優介を救ってくれていたのは、楓だった。これまで頑張れたのは、彼女のおかげだった。
優介は泣き声を上げ続けた。本当は、彼にも分かっていた。もう二度と会うとこはできないと、彼女が死んだのだと分かっていた。分かっていたはずなのに、それを受け入れられなかった。現実を見ず、癇癪を起こし、彼女の願いを無下にし続けていた。それが哀しくて、情けなかった。
それでも、最後の時まで彼を按じ、思い続けてくれていた彼女に、心から感謝した。そんな彼女を、心から愛しく思った。
泣き続ける彼の後ろには、脱ぎ捨てた服が散乱する。その一つのポケットには、楓に送るはずだった小包がこぼれていた。
その中には、一つのペンダントが。彼が彼女に送ろうと思っていた、想いの形。
それはひっそりと、見守るように、眠り続けていた。
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