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同じ空を
仕事を終えた優介は、電子レンジで温めたコンビニの弁当をテーブルに置く。
そしてノートパソコンをバッグがら取り出し電源を入れた。会社でまとめ切れなかった書類があり、哀しくも自宅でそれを作成するためだ。
特に見るつもりもなかったが、BGM代わりにテレビをつける。バラエティ番組の笑い声や効果音が流れる中、カタカタとパソコンを叩く音が断続的に響き続けていた。
ふと、優介は窓の外を見る。
薄いカーテンの向こう側は暗い。ちょっとした休憩のつもりで立ち上がり、窓を開けた。
涼しい風が部屋に流れ込み、街の喧噪が耳に入る。星は街の明かりに打ち消され、遠くの空にだけ、煌びやかな光の群小が広がっていた。
優介は、楓が住む街の方を見つめる。
街の向こう側、空と海、山、川を越えた先。そこにいるであろう楓の姿を思い浮かべる。
彼女は外の景色を眺めるのが好きだった。今日もまたあの日のように、外を眺めているのだろうか。同じ夜空の下、彼女は今、何を思っているのだろうか……。
手すりに腕を乗せ、彼女のことを思う。
「……」
しばらく外を眺めた彼は、思い立ったように窓から離れる。
そしてテーブルを通り過ぎ、机の椅子に座り、彼女へのメールを打ち込み始めた。
『そっちは晴れてる? 窓の外を見てみて』
彼女に送信した後、優介は椅子にもたれかかりながら、再び窓の外に視線を送った。
もし、今彼女がメールを開いているのなら……きっと、同じ空を見ていることだろう。離れていても、姿は見えなくても、同じ景色を通して、確かに繋がっている。
それが嬉しくて、恥ずかしくて、もどかしくて……。
そして、楓から返信が届いた。
優介は表情を綻ばせながら、彼女とメールのやり取りをする。
温めたはずの弁当は露を帯び始め、やがて、冷めてしまっていた。
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