107人が本棚に入れています
本棚に追加
from kaede.
――from kaede.
仕事を終え帰宅した優介は、パソコンに楓からメールが届いていることに気付いた。
ネクタイを外しながら椅子に座り、マウスを操作する。
『お仕事は終わりましたか?
今日も一日お疲れ様です。』
短い文だったが、優介は表情を綻ばせる。
「……相変わらず、なんで敬語なんだよ」
変わらない彼女からの連絡に、さっそく返事を返す。
『仕事は今終わったよ。
そっちはどう? 体調は悪くない?』
すると、すぐに彼女からの返信が。
『体調は大丈夫です。
明日は、お買い物に行きます。』
『分かった。あまり無理をしないように。』
そして優介はメールのやり取りを続ける。
とりとめのない話ではあったが、彼にとって、それはとても大切な時間だった。
学生から社会人になり、世間の荒波に飲まれる毎日。当初一人暮らしを始めた時、都会の一角にあるマンションのワンルームは狭く、そして、無機質なもののように思えた。それでも、数年も住めばその色に染まる。仕事で失敗し、取り引き先に頭を下げ、夏の暑さに項垂れ、冬の寒さに身を縮め……。
これが社会人なんだ。これが人生なんだ。これが普通なんだ。と、自分に言い聞かせ続けていた。それでも、時々何かが途切れそうになる。
そんな時に、力をくれるのが彼女からのメールだった。
優介はポケットからスマートフォンを取り出し、日付と時刻を確認する。そして、キーボードを叩いた。
『そろそろ休む。また、明日。』
そして、楓から返事が送られる。
『わかった。
また、明日。』
優介は少し名残惜しそうにパソコンから離れ、眠る準備を始めた。
最初のコメントを投稿しよう!