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「私はアリスなんて名前じゃないわ。それに、私早く帰らなきゃ……」
私がそう言うと、黒ウサギは面白そうに、そしてどこか嘲笑を込めた笑を浮かべた。
「君はアリスだよ。だって君は、それ以外の名前は捨てただろ? それに、帰るってどこへ? 君に帰る場所なんてあるの?」
「それは……」
黒ウサギの言葉に、私は言葉に詰まる。
本当の名前を忘れているというわけではない。けれど、その名前を口にすることは憚られた。
何故かは分からないけれど、なんとなく、口に出してはいけないような気がした。
それに、私は名前以外の記憶が無い。気づいたらここにいたから、どうしてここにいるのかも分からない。だから当然、帰る場所がどこかなんて分からない。
「でも、帰らなきゃ……」
帰りたいという思いはあった。思い出せないその場所に、帰りたい気はした。
「君は他人を不幸にしかしないんだよ、アリス。存在することで誰かを傷つけるんだ。だから、君はここに来たんだ」
「え……?」
黒ウサギは何を言い出すのだろう。私がここに来たのは、存在することが誰かを不幸にするから、ここに来たって……どういうこと?
「僕の言葉が理解出来ない?なら、僕を追いかけておいで、アリス。眠りの国がすべてを教えてくれるのだから」
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