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「人を待ってるって…1ヶ月もですか?」
この人は何を言ってるんだろうと、私は怪訝そうな顔をした。
「うん…実はさ、生まれて初めて、ラブレターを貰ったんだ」
「…は?」
先輩を相手にしているというのに、つい言葉が漏れてしまった。
しかし、私の失礼な呟きを先輩は気にするでもなく、話を続ける。
「2月のバレンタインのときに貰ったんだけどさ。放課後、図書室で待ってますって書いてあって。だから待ってるんだけど…」
話ながら、だんだんと声が小さくなる先輩に、私は信じられない気持ちでいっぱいだった。
本の上でしか人間関係というものを理解していない自信がある私だって、これがどういうことかわかる。
「はっきり言って、いたずらじゃないですか」
このふわふわした先輩には、ストレートに言ってあげた方がいいだろうと思い、すっぱりとそう言った。
「多分、いたずら仕掛けた人も、まさかまだ図書室に先輩が来てるとは思ってないですよ」
普通の人は、1日待てば、騙されたことに気づくだろう。というか、春休みはどうしていたのだろうか。
私の疑問を他所に、先輩は首を傾げる
「そうかぁ…いたずらだったのかな。もしかしたら明日来るんじゃないかって、俺ずっと待ってたよ」
なぁんだ、と笑う先輩に、笑い事じゃないだろ、と今度は心の中で呟きを止めた。
「実は、君がそうなんじゃないかって思ってたんだけど、毎日本を読んでて全然話しかけて来ないしさ。おかしいなと思ってたんだ」
何ということだ。まさか私が、ラブレターの送り主候補として見られていたとは。
違います、と大きく首を振る。
「…私は、本を読みに来てるだけなので」
「本かぁ。本を読むと、どうしても眠たくなるんだよな。君、毎日本読むなんて変わってるね」
この先輩にだけは言われたくない、と思ったが、当の全然は悪気のない顔でにこにこしている。
やはり、この人は変わっている。
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