第1話

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第1話

行灯の光がぼんやりと、だが、決して暗すぎず、地下街を照らす。ここは東京のはるか地下深く、有象無象の魔法の店が集う、魔術師が集まる取引所だ。 一人の女が、1軒の屋台の前で足を止める。屋台には、なにやら黒く干からびた、指の長さくらいの棒きれが、ずらりと並んでいる。 「30年モノが1本欲しいのだが」 その女魔術師、”アカネコ”は、舐め回すような視線で品物を吟味する。 「30年モノなら、ここらへんがどうかね」 老齢の店主は、1本の棒きれを手に取る。 「女モノで32。シラズモノだが、手頃なところだ」 「いくらだ?」 「親子揃いで30ってところか」 「高いな。サシだけで5で売れ」 「ホッホッホ。悪いがウチは親子揃いの5本売でね。バラなら他のところ行ってくれ」 店主はあたりを見渡す。もっとも、今日、サキを売っているのはこの店だけだ。ここで買わねば、もはや手に入らぬことは、”アカネコ”もわかっている。 「……わかった。揃いで25でどうだ」 「28だ。それ以上は負けられん。こっちも商売だ」 「しかたない。買おう」 ”アカネコ”は懐から札束を出す。 「まいど」 老齢の店主は札束を数えて懐にしまい、5本の棒きれを差し出す。”アカネコ”はそれを受け取ると、急ぎ足でその場を離れた。 「くそ、ボッタクリのじじいめ……」 ”アカネコ”は悪態をつく。誰も聞いていないはずだ。だが……。 「そういうことは、ここを出てから口にしたほうがいい。あの店主も魔術師だ。どこで声を聞いているかわからないぞ」 鳥の羽飾りを付けた帽子を被った男、”アオカラス”が”アカネコ”に近づいてくる。”アオカラス”は、ローブの中にから1冊の本を取り出した。 「では、今回の仕事について、おさらいしよう」
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